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対象に合わせた教授法「個別化教授法 Differentiated Instruction」

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ERIC NEWS
~by ERIC~ テキストを活かした人材育成、教育実践をめざして 2007/05/06
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木野美穂 (by ERIC推進担当)

<目次>
対象に合わせた教授法「個別化教授法 Differentiated Instruction」から見た
                『木と学ぼうProject Learning Tree PLT PreK-8』 2006 年版

■PLTの対象にあわせた教授法
■対象に合わせた教授法の工夫の実際
■北米環境教育連盟の「質の高い環境教育教材についてのガイドライン」
■ERIC PLT関連情報


「多様な背景や関心を持つ生徒たちを効果的に指導するために、教員は、どのように時間や、資源や努力を分配することができるでしょうか。一人ひとりの子どもが、その才能をのばす機会を、どのように保障することができるでしょうか。学習スキルやレディネスの異なる生徒たちが、目標に到達する授業をどのように創り出すことができるでしょうか。教員はこれらの目的を達成するために、個別に対応する教授法を授業のなかに組み入れます;生徒が情報を得、考えを押し進め、学んだことを表現するためのたくさんの選択肢を持てるように、教室内で複数のことが同時に進んでいくようにします。」(本文より)

才能に恵まれた生徒、障碍のある生徒、さまざまなモーティベーションの生徒、日本語を学びつつつある生徒など、日本においても、教室はこれまで以上に多様性に満ちているのではないでしょうか。

今回は、対象にあわせた授業をしやすくするようデザインされた『木と学ぼうProject Learning Tree PLT PreK-8』 2006 年版 テキストの紹介です。
一人ひとりの生徒がよりよく学ぶために、日々工夫されている教員・指導者の方々の教授法や評価法のレパートリーを増やすヒントになればと思います。

■PLTの対象にあわせた教授法■
北米環境教育連盟(NAAEE)の「質の高い環境教育教材についてのガイドライン」に適合するよう、PLTは3年をかけてPreK-8 テキストの改訂作業を行いました。そのゴールの一つが、「教員が多様な教授法をとれるようにサポートを強化する」というものです。
その他のゴール「読み物の活用」「評価の方法」「情報テクノロジーの活用」も、幅広い生徒の力を引き出すことと、密接にかかわっています。

PLTテキストでは、「対象に合わせた教授法」の解説で、次のことを言っています。
○教員は、各生徒の適切な学びの入り口と学んだことを表現する出口を見極め、それに応える教授法と  評価方法のレパートリーを持つ必要がある。
○対象に合わせた指導は、授業案の内容、展開、成果、評価の各領域で検討することができる。
具体的には、授業で要求される思考スキル、新しい素材を広げ方、授業や単元を進める早さ、学んだことの深さと複雑さを、生徒の一人ひとりのニーズや関心、意欲、重要性に配慮して決定する。

チャンスがあれば原書を手にとって見ていただきたいのですが、PLTテキストそのものが対象にあわせた授業をしやすくするようデザインされています。

アクティビティ(単元)の共通の構成要素:評価の視点、発達段階に応じた進め方、発展課題、読み物の活用、生徒用ページは 対象に合わせた指導の選択肢を増やしています。
さらに「個別化教授法 Differentiated Instruction」アイコンによって、特別に対象に合わせた教授法の選択肢が掲載されたものが、2006年版 96のアクティビティのうち、19あります。

以下はアイコンによる選択肢のリストです。
○鍵となる用語をハイライトする。-生徒がそれを、識別し、使ってみて、使いこなせるようにするのを支援する
○これまでの既存の知識と関連づける
○ペア/協力学習を取り入れる
○文字によらない表現
○実物やハンズオンを活用する
○カリキュラムと個人の関連づけ
○口頭での発表/読む/書くスキルを育てる
○高次の思考スキルを伸ばす機会を取り入れる

次に、アクティビティ(単元)のなかで、先に記した対象に合わせたの工夫があるか、どのように表れているか具体的に見てみましょう。
・アイコンによって示されているものに※をつけます。
・<>にどのような個別化であるかを記載しました。


■対象に合わせた教授法の工夫の実際■
アクティビティ 44 水の不思議 Water Wonders Part A
「システム」概念の中に位置し、4-8年生を対象。

◆ アクティビティの概要:
水の循環をシステムと認識します。ゲームと実験を通して、生徒に水の循環のさまざまな段階を紹介し、水の循環と生物とを関係づけられるようにします。
Part A は、生徒一人ひとりが水の分子になって、分子の旅を体験するゲームです。雲、氷河、小川、地下水、海、植物、動物の各ステーションには「蒸発して大気中に。雲へ」などの1-6までの6つの指示があり、生徒はサイコロをふって、出た番号の指令に従って次のステーションに移動し、移動を記録します。
移動先は水の分布の割合にしたがっています。最後にクラス全体で分子の動きを確認します。
◆ ねらい:
生徒は、
◇水の循環を構成するさまざまな要素と、一つの水の分子がこの循環のなかでたどる道を描写することができる。
◇水の循環が生物にとってどのように大切か説明できる。
◇植物が、河川の流域における水の移動にどのような影響を与えるかを描写することができる。 (Part Bのねらい)

◆ 評価に活かす:
◇※何も書き込んでいない水の循環の図と鍵となる用語(蒸発、降水など)のリストを渡す。
生徒は、言葉を切り抜き、プロセスのステップに従って、それをノリで張り付ける。
<正しい発音やつづりができなくても、単語を識別でき、循環の順に並べることで、循環について理解したことを表現できる。>

◆ 準備する:
ステーションそれぞれに大きいラベルをつくる:雲、氷河、小川、地下水、海、植物、動物。※ 絵か雑誌から切り取った写真でそれぞれのステーションのラベルに貼る。<文字によらない表現>

◆ アクティビティの進め方
Part A-雲の上に行こう

1. ※生徒にこれまで水の循環のことを聞いたことがあるかだずねる。
ペア毎に、自分たちが水の循環について知っている言葉を書き留め、その後自分たちで考えた水の循環について記述。クラス全体にを共有。
<これまでの既存の知識と関連づける、ペア/協力学習>

2. 地球の水の分布量を示したデータを生徒に見せる。
水の循環の絵(図解)を黒板に描く。生徒が蒸発、地下水、蒸散という言葉を確実に理解しているようにする。
<鍵となる用語を図解とともに示す>
生徒に注目させるために以下のことを問う。
□生物がそんなに多量の水を必要とするなら、なぜ使い果たしてしまわないのだろう。
□水たまりが干上がったとき、水はどこに行ったのだろう。
□なぜ海や湖は、水たまりのように干上がらないのだろう。
□雨はどこからくるのだろう。
□水はいつも水の循環の絵で示されてるのと同じ道をたどるのだろうか。
<平易な日常の言葉で問う>

3456. 生徒は水の分子の旅を体験する。サイコロをふって、移動する。
水の循環スコアカード(生徒用ページ)に、現在のステーション名、自分に何が起きたか、次に行くところを記録する。
指導者が「循環」と声で合図すると、生徒は指示書で指示された場所に移動する。多くの生徒が
雲のステーションを2-3回通るまで繰り返す。
<指示書の中で、鍵となる用語を何度も目にし、スコアガードに何回か書く。
水の分子の動きの方向をからだを動かしながら理解する>

78. ※「次に」「~あとで」「~まえに」「~とき」「~あいだ」などの時間の順序を示す言葉を復習する。
<口頭での発表/読む/書くスキル>
生徒に文字の書いていない水の循環の絵を配り、順序詞と水の循環の用語を記入させる。
<このとき、英語を学びつつある生徒は、前述「◆評価に活かす」の方法で行う>
一人ひとりが自分が体験した旅をストーリーにする。

9. 黒板に、7つのステーション名を書く。雲から始め、生徒に雲に行き着いたすべての道をみんなと共有する(例えば、海から蒸発した、植物から蒸散したなど)。
黒板に、生徒の発言を、雲ぶ向かう矢印で描いて示す。他のステーションについても同様にする。
<聴覚と視覚の併用>

10. ※下記の問いについて話し合う。<高次の思考スキルを伸ばす機会>
□個々の分子は異なる道をたどっても、分子の旅について似ている点はないだろうか。
□旅はそれぞれ特有であっても、ゲームの中で、最も多くの水の分子が訪れたステーションはどこだろうか。
そのことから何が推論できるか。
□このゲームに含まれていない、水の循環の構成要素を思いつきますか。それらは循環のどこに位置するだろうか。
□(ステップ2の絵を示し)水の循環は通常はこのようです。
水がたどる全てのパスが含まれていないとしても、これは水の循環を示すのに役立つと思いますか。
□何が循環を進めるのだろう(太陽、重力、水の物理的特性)。もし太陽のエネルギーが地球から遮断されたら、どうなるでだろう。
□もし、地球上の全ての水が、海に留まったらどうなるだろう。もし雲にだったら。
□水の循環は、植物や動物にとってどのように大切ですか。

ここまで読んでくださったみなさんは、どんなことに気づいたり、感じたりされましたか。
複数の感覚を通して伝えることで、多様な学び方の生徒に届きやすくしている点、言葉の選択、鍵となる用語の導入のタイミングとそれらの言葉を使いこなせるようにしてゆくステップが、よく考えられていると感じました。このような工夫が、生徒一人ひとりが大切にされているというメッセージとして伝わるのかもしれません。

最後に、PLT改訂の背景にあるガイドラインの「対象に合わせた教授法」と関わり深い部分を紹介します。
■北米環境教育連盟の「質の高い環境教育教材についてのガイドライン」 ■
<ガイドラインの6つの柱>
1. 公正さ 2. 深み 3. スキル向上 4. 行動化 5. 教授法の確実性 6. 使いやすさ 

その中の、5. 教授法の確実性:効果的な学習環境をつくりだすための教育手法 は、5.1 学習者中心の教授法 から 5.8 評価 まで8項目があり、各項目には、その項目にあげられた目標 を満たすための具体的なチェック項目があります。
5.2 多様な学び方のチェック項目は次のようになっています。

5.2 多様な学び方:教材は教え方や学び方の多様なやり方が経験できる機会を提供しています。
・学習者の学びのスタイルは多様であるので、教育者がさまざまな教え方を試してみるよう教材は促して いる。これらの技術は、調査、実験、観察、講義、話し合い、創造的に表現すること、フィールドスタディ、 ロールプレイ、自主研究、協同学習、学年をまたいだ授業などがあげられる。
・すべての生徒が理解できるように、重要な概念はいくつかのやり方(視覚に訴える、聴覚に訴える、触覚 に訴えるなど)で伝える。
・教材とアクティビティは対象学年に応じて発達上適切な内容になっている。また一人ひとりの教育体験や学びの方法に違いがあることに対しても十分配慮している。
・生徒は表現や経験から学ぶ機会がある。例えば学びの活動に音楽、アート、詩、演劇を活用したり、親、コミュニティを巻き込んだりする。
・さまざまな感覚を使うことが、学習アクティビティを選ぶ際の基準である。
・学習者は「多重知能」を発達できるよう取り組む。
・生徒が限られた英語力しか持っていなくても、学べるようになっている。    

■ERIC PLT関連情報■
◇質の高い環境教育のためのガイドライン ERIC NEWS 2006/10/29
・「質の高い環境教育教材についてのガイドライン」の詳細については、レッスンバンク
 0608  Guidlines for Excellence
◇PLT2006年版を翻訳するプロジェクトを進めています 
・「PLT2006年版 翻訳プロジェクトAdopt an Activity」
   >> http://ericplt.exblog.jp/
 翻訳済みのアクティビティなどを見ることができます。
◇PLT2006年版テキスト
・Intrductry Module~より質の高い環境教育を目指して~ 2006年11月発行
・Energy & Society 
2006年版を活用するための補遺と第一季学習会で検討したアクティビティの翻訳を出版の予定です。
◇PLT学習会
・「PLT第二季学習会 屋外のアクティビティの効果を高める」が5/18から始ります。
第1回は、 PLTコーディネーター会議報告会です。
by ericnews | 2007-05-06 03:48 | ■by ERIC:テキスト、企画


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