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多様性教育トレーナー養成講座に参加して =========================================== 木野美穂 8月の中旬、大阪多様性教育ネットワークODENが、米国「多様性の世界ィ研究所」から2人のトレーナーを招いて開催したトレーナー養成講座に参加しました。 前後を含めると10日という時間、参加者自身のこれまでと現在、考え方や行動パターンがあらわれる活動内容によって参加者各「人」についての理解が深まり、関西を中心に人権分野で活動されている方々、トレーナーとともに共同プロジェクトをやり終えたような達成感があります。 と同時にマニュアル、内容についての厳格な制約があり、学んだことをどう生かすかは、参加者にかかっているということを強く感じる講座でもありました。 今回は ■「多様性の世界ィ研究所」とは ■「多様性の世界ィ研究所」の指導者育成のしくみ ■多様性教育のプログラムとAVP/HIPPプログラムとの共通点 ■「多様性の世界ィ研究所」の多様性教育とERICの人権教育 ■わたしにとっての新しい視点 について報告します。 「多様性の世界研究所」と多様性教育の基本的な考え方、『反バイヤス学習ガイド』については『多様性教育入門参加型人権教育の展開』大阪多様性教育ネットワーク・森実編著 解放出版社 2005年をご覧ください。 大阪多様性教育ネットワークは、時々に多様性教育実践セミナーを開いています。機会があればぜひ参加してみてください。 ---------------- ■「多様性の世界ィ研究所」とは、AVP/HIPPプログラムとの共通点 「多様性の世界ィ研究所」(A WORLD OF DIFFERENCEィィInstitute. )は、ADL:Anti-Defamation Leagueという団体が設立した多様性教育推進機関です。 ADLは1913年にユダヤ人に差別をなくすためにユダヤ系の弁護士が中心となって設立され、当初から正義と公平な扱いをユダヤ人だけでなく全ての人たちに保証するために活動してきた公民権・人間関係に関わる機関です。 80年代半ばADLとボストンのテレビ局で行ったキャンペーンをきっかけに、教室やコミュニティで起こっている偏見の問題に取り組むための効果的な方法への要請が高まり、 1992年、ADLは「多様性の世界ィ研究所」を設立し、トレーニングプログラムとカリキュラム教材の整理、開発をはじめました。「多様性の世界ィ研究所」では、反バイアス教育という概念を中心としつつ、それを多様性教育や多文化教育といった概念と置き換え可能なものとして使用しています。 ■「多様性の世界ィ研究所」の指導者育成のしくみ 8日間のトレーナー養成講座(TTT=Training the Trainer)に参加すると、トレーナーと認定されトレーナー用マニュアルと『小・中学校用反バイアス学習ガイド』を受け取ります。 トレーナーとなった人は、大人向けの多様性教育を行うことができるほか、『小・中学校用反バイアス学習ガイド』を使って子どもに指導する人を養成する講座を開催することができます。 ただし、いずれも、実施に当たっては2人のトレーナーがペアで行うことと定められています。また、トレーナー資格期限は3年間で、トレーナー資格を継続するには3年毎にブラッシュアップ研修を受けなければなりません。 「多様性の世界ィ研究所」のプログラムは、セミナーを受講したマニュアル保持者のみが実践してよいため、学年全体、学校全体で取り組むためには、複数の教員で実践セミナーに参加するか、学校内で2日間相当の研修を実施して教員たちが『反バイアス学習ガイド』保持者になることが必要です。 研修を受けることを絶対条件にしているのは、指導者となる人に「多様性の世界ィ研究所」の多様性/反バイヤス教育の基本的な考え方・理念をしっかり理解し、マニュアルに基づいた参加型学習の進め方を習得したうえで、プログラムを実施することで、教育の質を保持するというのが主な理由であると思います。 ADLは全米に31のオフィスを持って展開しており、PLTと同様、テキスト、指導者育成、実践の3本柱の展開です。またガイドのさまざまなレッスン(アクティビティなど)は全米の教育基準に適合するよう開発されていて、学校の既存のカリキュラムに組み込むにはどうすればよいかというモデルもつくられています。 「多様性の世界研究所」では、新しいプログラム開発に当たって、実験的に作成されたアクティビティやプログラムをパイロット校で実施してもらい、その結果をフィードバックすることを繰り返すそうです。このシステムは、1990年代から作られています。 実践できる人を増やす点でハードルはありますが、2001年に大阪で開催したトレーナー養成講座修了者には自分の学校で実践する人も多く、ODENでは講師派遣の依頼も受けています。また、奈良県の五條市立野原小学校などでは、数年にわたり学校全体で多様性教育に取り組みました。 同校については、次のサイトをご覧ください。 http://www.gojo-nar.ed.jp/noharass/ 日本で本格的に実践を広めてゆくためには、日本版の多様性教育プログラムが必要で、現在ODENはこの点に力をいれています。 ■多様性教育/反バイヤス教育のプログラムとAVP/HIPPプログラムとの共通点 参加してみて連想したのが、2002年にERICのスタッフが体験したAVP/HIPPのワークショップです。(社)シャンティ国際ボランティア会主催 AVP:Alternative to Violence Project もHIPP:Help Increase Peace Program も、非暴力による対立解決や社会変革のための教育団体であるAFSC:American Friends Service Commiteeのプログラムの一つです。 AVPは、70年代に米国の刑務所内で暴力を減らすための教育活動としてニューヨークのクエーカー教徒が開発したプログラムで、HIPPは、1990年AVPをモデルに学校向けプログラムとして開発され、米国中の中学校・高校、地域のセンターなどで、青少年を対象に実施されている他世界30ヵ国に広がっています。 AVP/HIPPのプログラムは対立と社会的不正義を柱とし、3日間のワークショップとその後の活動を通して、参加者が非暴力で対立を解決するスキルを身につけること、自分と他者と社会の不公正による影響を分析し、個人と社会のよりよい変化のために前向きな非暴力的な行動を起こすことを目指しています。 (※AVP/HIPPのワークショップについて レッスンバンク12-17 暴力に代わるもの) それぞれのプログラムは焦点をあて方、スキル目標は異なりますが、以下のような共通点があります。 ・個別の課題から始まった社会教育のプログラムが、普遍性をもって、米国の学校教育に広く浸透していること ・学習者自身のコミュニティのよりよい変革のための行動が教育目標であること ・参加型学習、特にロールプレイと小グループでの分かちあいを多用する手法-自分自身を表現することと聴く 姿勢 のトレーニングでもあると思います。 ・対立の場面を想定したトレーニングが含まれること ・ワークショップを2人のトレーナーで進めること 2人でファシリテーションする理由について、AVP/HIPPのファシリテーターは、協力のモデルを示すことをあげ、ADLのトレーナーは、ワークショップの場に複数の背景と視点と持ち込むことができること、異なるバックグラウンドを持っていると参加者が予想できる2人が協力できることを示すことをあげました。 ■多様性/反バイアス教育とERICの人権教育の内容面・手法での比較 多様性/反バイアス教育は、『多様性教育入門』で紹介されている『小中学校用反バイアス学習ガイド』の章立てに見られるように、 1.自分と他者を構成するアイデンティティを意識化し、自尊感情を育てる 2.私たちが所属するさまざまな文化とそれらが自分のものの見方・考え方に与える影響の意識化 3.自分や社会の中にある差別や偏見を見抜く力の育成 4.偏見を正すための行動と多様性を尊重する環境づくりのための行動力の育成 の4つの柱からなっていて、 子どもから大人まで発達段階によって重点の置き方、アプローチの仕方が異なります。 『小中学校用反バイアス学習ガイド』が保護者の協力を得ながらの学習展開であること、4つめの行動化の部分では、市民として他の人々と協力して行う行動について時間をかけて学ぶ点が、日本で実践されている学校教育の中での人権教育とは異なる点でだと感じました。 他方ERICの人権教育『人権教育ファシリテーターハンドブック 発展編・実践編』(対象は大人)は 1.人権としての教育 2.人権についての教育 3.人権を通しての教育 4.人権のための 教育という人権教育の4つの側面から編まれています。 切り口は異なるものの、前者の4つの柱と、後者の2-4の側面は内容的にはほぼ重なると思います。 「1.人権としての教育」が多様性教育では、「多様性が尊重される教育環境で学ぶことが人権として保証されなければならない」というのが大目標にあると思います。 手法の点では、多様性/反バイヤス教育は主として、自分自身を視点をもって見つめることで気づく、身近な事例をロールプレイの題材にして考えたりトレーニングしたりする手法をとっています。 ERICでは、比較すると、抽象化したシュミレーション、分析の枠組みを使った話し合いの割合が多いです。 たとえば、privilege(特権)という概念に関連したアクティビティでも、 「多数派・少数派」 「遅れて来た定着民」 「これって人権侵害?(LB17-2)」など。 参加者のコミュニケーションスキルやスタイル、許される時間によっても異なるでしょが、それぞれの有効性と限界を検討してみたいと思います。 ■わたしにとっての新しい視点 講座では、 「~ism :主義」※1 という言葉を共通言語として持ち、差別・抑圧事象の個人的、構造的表れを考えるさいの視点として用いました。 ERICの「日本社会の○△□」※2 は自治体レベルの人権教育推進の行動計画で言及される「~問題:同和、女性に関する、子どもに関する など」を縦割りにせずに読み解く視点として優れています。英語の 「~ism 」で日本社会にあてはまるものがイコールではないと思いますが、 ageism(年齢に関する差別意識) ableism(障害に関わる差別意識) 講座の中でも何と訳すか話題になりましたが、「健常」を求める価値観)など、社会全体の人権尊重を進めるうえで、有効な視点であると感じました。 ※1 『多様性教育入門』p.33 ※2 日本社会の特徴 文化比較の指標 『いっしょに進めよう!人権』p.53など < Information > ■新刊 『STEP5(ステップ・ファイブ)』 参加型ですすめる5つのステップ (2006年9月1日より販売開始 予約受付中) ERICツールブック・シリーズの新書『ステップSTEP5(ステップ・ファイブ)』では、 多様な考え方や価値観、背景を持った人々がいる組織でコミュニティビジョンを、 共有し、共同の行動計画づくりそんなグループが5つの段階を踏みながら、合意 形成・行動計画づくりを可能にする効果的な方法を提示しています。 詳しくは http://www.eric-net.org/tool8.htm#step5 <・外部シンポジウム関連のお知らせ> お申し込みは直接オーガナイザーへ。 ■環境科学会2006年会 環境科学シンポジウム4 2006年9月5日(火) 午前10時~12時30分 上智大学 D会場(L912) ・環境科学と大学の環境教育の体系化 ―歴史・現状・未来3― 「農学系学部の改組と環境冠学科」 農学系の環境科学、及び大学教育研究の著名な先生方が、司会・講演をされます。 是非、ご参加ください!! ・オーガナイザー:内山弘美(東京大学空間情報科学研究センター 協力研究員) ・司 会 :小笠原正明(東京農工大学大学教育センター 教授) ・参加費(非会員):1000円 (なお、学会の他のシンポジウム、一般発表、ポスター・セッションにも参加される場合は、通常の参加費(非会員学生5000円、非会員一般9000円)となります。) シンポジウムに関する問い合わせ、参加申込:lavechan1@yahoo.co.jp オーガナイザー <プログラム> 第1部 10時~11時15分 趣旨説明: 内山弘美 講演者: 瀬戸昌之 (東京農工大学農学部環境資源科学科 教授) 佐藤邦夫 (三重大学生物資源学部共生環境学科 教授) 中曽根英雄(茨城大学農学部地域環境科学科 教授) 第2部 11時20分~12時30分 総合討論 コメンテーター:増田美砂(筑波大学環境科学研究科 助教授) 柳下正治(上智大学地球環境学研究科 教授)、他 オーガナイザーのプロファイル: 1990年代前半に、大学院生(東京大学大学院教育学研究科)として、環境教育をテーマに研究を開始した。 爾来、15年間、環境科学及び大学の環境教育を専門に研究している。 (周知のように、東大には環境教育のご専門の先生はいらっしゃいませんので、他大学の先生方や学生から、環境教育に関する問い合わせを受けています。) 本シンポジウムは、TIEES(Tsukuba Interdisciplinary Environmental Education Seminar)の9月会合を兼ねて開催いたします。
by ericnews
| 2006-08-28 00:11
| ■by ERIC:テキスト、企画
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